前回に引き続き、今回は低学年の山場である生化学・解剖学・組織学の教科書紹介です。
生化学
おそらく低学年で出会う最初の本格的な基礎医学になるんじゃないでしょうか。
個人的な意見ですが、かなり好き嫌いが分かれるイメージです(圧倒的に嫌いな人が多いですが笑)。
生化学を学ぶついでに分子生物学も学ぶ感じでしょう。分子生物学の知識は今後もついて回ります。大まかな理解で大丈夫ですので苦手意識だけは克服しておきましょう。
『はじめの一歩の生化学・分子生物学』
僕はこの本の第2版で勉強したのですが、第3版でカラーになったうえに分子生物学も学べるようになりました。
生化学は生物学を専攻している人向けの本もたくさんあるので、比較的選択肢が多い分野です。その中でも羊土社から出版されているだけあり、医学生に必要である部分に絞って作ってあります。
ほとんどの人が通読可能な分量に抑えてあるのもいいポイントです。
見た目とは裏腹に結構しっかりした作りとなっていて、4年生のCBTにも十分対応できます。
名前の通り、最初の本として、また全体を概観したい人に最適な本だと思います。
『ベインズ・ドミニチャク生化学』
僕が生化学を学んでいたときには出版されていませんでした。なので僕は生化学を上記の『はじめの一歩の生化学』の第2版と『リッピンコット』で勉強しました。
その後生化学の勉強を再度したいなって感じ、5年生あたりの時に探して見つけたのが本書です。
先にも述べたように、生化学は生物学専攻向けの本もたくさん出版されているため選択肢自体は結構あります。
ただ、選択肢はあるにはあるんですが、生物学専攻向けの本と医学部向けの本とでは結構匂いが違います。生物学専攻の人向けで有名な教科書である『ストライヤー』なんかがそうですね(気になる人は書店で見てみてください)。
医学生向けだと『ハーパー・生化学』の方が有名だと思いますが、本書の方がより臨床を前面に出している印象です。
医学部向けで、調べ物用かつ臨床を意識している本で一番良いと感じたのが『ベインズ・ドミニチャク生化学』です。学んだ知識が臨床にどう関係しているのか書かれているのでためになります。
そういった本が欲しい人はぜひ本書を手に取ってみてください。
解剖学 -講義編-
学生時代には役に立たないだろうなって感じながら勉強していた解剖学ですが、臨床に出るとやっぱり重要ですね。内科に進む僕ですらそう感じるんですから、外科志望の人はもっとそうなんでしょう。
ただの暗記ゲームと考えがちですが、講義系の本で勉強すると「人間って合理的にできているんだな」って感じることが多々あります。低学年の時間のあるうちにできれば講義系の本で一度は勉強したいところです。
『プロメテウス解剖学 エッセンシャルテキスト』
僕の学生時代には本書はなかったですね。『プロメテウス解剖学』自体はあったのですが、アトラス本だけでした。
医学生へのおすすめ本としてあげるなら本書ですね。
医学生時代はお金がない人が多いですから、アトラスと講義とを合わせて一冊で済ませられる本書の存在はありがたいでしょう。
どうしても一冊で済ましている分、内容がやや足りなくなるという欠点はあるかと思いますが、医学生にとって内容云々よりも実習を乗り切ることの方が重要でしょう笑
大学での配布プリントがしっかりとした作りになっているのであれば、プリントと『プロメテウス解剖学』のアトラスのみで済ませるって方法もあるかと思います。
『グレイ解剖学』
解剖学書で一番有名な『GRAY’S Anatomy』の『FOR STUDENTS』版を翻訳したものです。
親本の『GRAY’S Anatomy』は外科系の先生たちのバイブルですよね。ちなみに内容は『FOR STUDENTS』版である本書とずいぶん違います。
『グレイ解剖学』は講義本ですが “それなりに” アトラスも含んでいます。電子書籍版もついているのもいいですね。解剖学の本は重くなりがちですから。
内容はかなりしっかりと書かれています。医学生には十分すぎるほどの内容です。
解剖学は実習などもやりながらですので、通読はかなり厳しいでしょう(全くやらなくていいのですが)。
ちなみに、解剖学の講義系の教科書だと、僕の時代にはまだまだ『解剖学講義』も結構読まれていたのですが、アトラスがかなり簡素であり、本書が出版されているためもはや積極的におすすめはできません。
アトラス用として使用するには正確性に欠けるかなって気もしますが、アトラスも別に購入するのであれば、問題ないです。
『臨床のための解剖学』
名前の通り臨床に重きを置いた解剖学の講義本です。
学生時代には前版であり、悩んだ末購入しませんでしたが、今医学生だったら本書を選んでたと思います。
ただ、いくら臨床寄りになっていても、臨床に出ていない医学生にはほとんど影響なかったりします。結局臨床で重要なところは臨床に出てみないとピンとこないものです。
それでも、こういうところが重要なんだなってメリハリはつけられますので、臨床よりの本が欲しい人はぜひ本書を。
『日本人体解剖学』
フルカラーで改訂されましたね。アトラスはかなり綺麗です。個人的には好きなアトラスだったりします。
臨床的コラムを増やしてより臨床を意識しているのも素晴らしいです。が、分冊でこの値段だと学生にはなかなか手が出ないですね。
臨床医でここまでしっかりと解剖学を読み込むかというと、さすがに僕もチョットってなります。外科の先生とかは買うんでしょうか。
立ち位置が難しい…
解剖学 -アトラス編-
解剖学のアトラスは分冊になっているものが結構販売されています。
学生時代には「どんなリッチな学生が買うんだろうか」と疑問に思っていたのですが、実は外科系の先生たちが買っているんです。このことからも解剖学が臨床に出てからも重要なのがよく分かりますよね。
『プロメテウス解剖学』
メチャクチャ美しいです。「綺麗」というより「美しい」という言葉が似合います。
その美しさで一気に解剖学アトラス界のスターダムにのし上がりました。
分冊だけではなく『コア アトラス』があるので医学生も選択肢になるでしょう。
解剖学の授業でプリントなどが配布されて、講義系の本がなくても大丈夫なのであれば本書のみを購入も良いんじゃないでしょうか。
『ソボッタ解剖学アトラス』
個人的に一番好きな解剖学書です。もはやただの好みですが笑
アトラスなのですが下にテキストもあり、それが結構ありがたいです。『グレイ解剖学』のテキストとアトラスの比率を逆にしたようなイメージです。
臨床医になると、特に内科医の僕は、講義系の本を使用してまでがっちりとは読みません。なので、この配分が心地よいのです。そして何よりソボッタのアトラスが大好きです。
学生時代には前版だったのですが、古かったので改訂してくれたら買おうとずっと思っていたのですが、全く改訂されませんでした泣
が、最近ようやく改訂してくれました。分冊ですが、間違いなく全巻買います。丸善出版さん、ありがとう!
『ネッター解剖学アトラス』
「解剖学アトラスと言えばネッター、ネッターと言えば解剖学アトラス」というぐらい有名ですね。
最近は『プロメテウス』の方が人気なような気がします。一時代の終焉でしょうか。
ちなみに、僕はネッターのアトラスが好きではありません(どうでもいい事でしょうが)。なんか、ノペっとしている感じが苦手です。ハイ、ただの好みです。
だから、有名なのに参考での紹介です。ネッターが好きな人、ゴメンよ。
組織学
基礎医学本でトップクラスに重要であろう病理学を勉強するための土台になるのが組織学です。
正常がわからないと異常も分かりません。地味ですが大事な組織学です。
『入門組織学』
組織学の入門書としては一番のおすすめです。
必要十分な記載で通読して概観可能な分量です。文章も読みやすく、そしてイラストが非常に分かりやすい。
組織学を学び始めたうちは、プレパラートの標本を見てもはっきり言ってよく分かりません。教授などにはバカにされるかもしれませんが、こういったイラストから入った方が圧倒的に理解が進みます。
組織学がよくわからないって人は、まずは本書で全体像を掴んでみてください。
『Ross 組織学』 or 『バーチャルスライド 組織学』
両方とも僕が学んでた時にはなかったものです。なので、僕は分厚い系の組織学の教科書は『標準 組織学』の総論・各論を使用していました。これはこれで好きだったんですけどね。
『Ross組織学』は当時前版(原著5版の翻訳)が発売されていたのですが、古かったこととAmazonで誤訳が多いと評価されていて、最後まで悩んだものの結局購入しませんでした。今は原著7版を翻訳した改訂版が出版されています。
『Ross組織学』は改訂されてさらにみやすくなりました。HE染色標本が多く、まとめの記載もあり、医学生にかなりおすすめの一冊です。本来ならばコレを素直におすすめにあげたいところでした。
が、さらに『バーチャルスライド 組織学』も出版され、こちらもかなり良さげ何です。そしてまさかの羊土社からの出版。羊土社ってレジデント向けの本を扱っているイメージなんですが、たまに斜め上から予想だにしないタイプの教科書を出版しますよね。どういった経緯なんでしょう。
どちらも良書で方向性もほとんど同じです。『Ross 組織学』の方が詳しめですが、ほとんど好みの問題ですかね(専門家から見ればもっと違いはあるのでしょうが)。
こんなにいい本が揃っていて、今の医学生が羨ましいです。