今回は抗菌薬について。
最近は医師国家試験でも当然のように問われるようになったためか抗菌薬はみなさんしっかり勉強している印象です。
僕が「できる医者になるためにはどうやら抗菌薬の勉強をした方がい良いらしい」と感じ勉強し始めたのが医学部4年生、2016年です。
その頃は不遇であった感染症が認められ、抗菌薬の適正使用の重要性が叫ばれていた時期でしょうか。抗菌薬関連の本が少しずつ増え始めた時期でした。
現在ではかなりの種類の抗菌薬の本が売ってますね。
わざわざ重要性を訴えなくても当然のように勉強している。素晴らしいと思います。
ただ、増えてきたとはいえ感染症科がない病院はたくさんあります。自分でなんとかしなくてはいけないこともあるでしょう。
抗菌薬に関しては座学がそのまま臨床に活かしやすいです。
今後のためにもしっかり勉強しましょう!
基礎を身につける
『わかる抗菌薬』『使いこなす抗菌薬』
『医学生おすすめ本 -next stage-』でも紹介した『Essence for Resident』シリーズの2冊です。
こちらで一通り説明してるので読んでみてください。
「どれか1冊おすすめの抗菌薬を教えてください」と言われたら、自信を持って真っ先に紹介するのがこちらの『使いこなす抗菌薬』です。
話が少し外れます。
もともと僕は微生物学はあまり好きではなかったのですが、「抗菌薬はどうやら重要らしい」と感じ勉強しようと思い立ちます。
抗菌薬を勉強しようと思い立ち、それこそインターネットで「抗菌薬 おすすめ」で検索し、当時紹介されていたのが『絶対わかる抗菌薬はじめの一歩』でした。
Amazonの評判はかなりいいですね。同級生でもこの本を使って勉強している人が結構いました。
初学者にいいと評判だったので買って読んだのですが、とてもじゃないですが初学者向けではありませんでした。ある程度勉強した人が知識を整理し直すための本って感じです。
名前とは異なり端的にまとめられすぎて、理解というより無味乾燥なガチ暗記を要求されているようで、「なんでこの本が初学者向けとしてこんなに評判がいいのだろうか」と不思議に感じていました。
ゼロ知識から膨大な抗菌薬の暗記を求めらる。当然のごとく挫折して終了しました。
当時は初学者に優しいものはほとんどなく、マニュアル的なものが大半でした。
その中で自分で本屋に行って探して購入し、少しできるかもと思えるようになったのが以下の『感染症まるごと この一冊』でした。
『絶対わかる抗菌薬はじめの一歩』と同じ著者です。
先にでた本はあまりに初学者向けではないと思ったのでしょう。こちらは後から出版されたためかかなりわかりやすくなっています。
抗菌薬をオーダーする時は、何も抗菌薬のみを考えている訳ではないですよね。
「こういった患者さんの、この臓器に、この細菌が感染症を引き起こしているからこの抗菌薬をオーダーする」という流れがあるはずです。
そのためには、感染症内科ではよく言われることですが、「感染症学・微生物学・抗菌薬」を行ったり来たりしながら勉強することが大切です。
本書は一冊でこの3つの基礎がマスターできるようになっています。
『使いこなす抗菌薬』が出版されるまではこちらをおすすめしていました。もちろんこの本は今でもおすすめできます。
その後色々な本で勉強し、ある程度基礎は出来上がったのですが、そういった紆余曲折があった後に出会ったのが『使いこなす抗菌薬』でした。
『まとめてみた』で天沢ヒロ先生の著書の良さは十分すぎるほど知っていたので期待して立ち読みしたのですが、その時の感想が「まさにこの本で抗菌薬の勉強を開始したかった」でした(てか、もっと早く出してくれればこんなに苦労しなかったのに…グスン)。
『まとめてみた』のゼロ知識から一気に医師国家試験レベルまで持っていく「でき」といい、『使いこなす抗菌薬』の初歩レベルから一気に一般的な感染症に関しては問題ないレベルまで持っていく「でき」といい、天沢先生の能力はどうなっているんですかね。
天沢先生の「専門外でも医者としてここまではしっかりと身につけよう」というスタンスは僕の思うところでもあり、読んでいて本当に勉強になります。
青本の方は結構難易度の高いことも書いています。そして臨床的です。
この本に書いてあることを初期研修医のうちに「使いこなす」ことができれば、十分すぎるほど合格点です。臨床で出会う一般的な感染症に関しては適切に対応しつつ、対応不可能な症例は感染症内科へスムーズにコンサルトできるようになるでしょう。
そして、以下であげるような難し目の本を読んでも理解しやすくなります。
間違いなくおすすめの1冊です。
実際に問題を解く
『抗菌薬ドリル』『感染症ケースファイル』『抗菌薬選択トレーニング』
概ね右に行くほど難し目になります。
抗菌薬に関しては本だけではどうしても覚えられないでしょう。やはり問題集を解いていくのが身につけるのに持ってこいです。
有名であろう本をあげています。『感染症ケースファイル』はこの中では有名とは言い難いですが、グラム染色の重要性がわかる一冊です。個人的に好きでかつ勉強になったので紹介してます。
問題を解くことが大事なので、ここにあげた本以外でも大丈夫です。
どれか一冊と言われれば無難に『抗菌薬選択トレーニング』でしょうか(でも、本当にどれでも大丈夫です)。
マニュアル片手に実際に「処方」してみましょう。その方が圧倒的に覚えやすくなりますよ。
発展させる
『IDATEN感染症セミナー実況中継』シリーズ
IDATENって知ってますか?
Infectious Diseases Association for Teaching and Education in Nipponの略で、活動内容はその名の通り、日本の感染症診療と教育をすすめるための組織です。
会員で有名なのは神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生ですね。
そこで行われているセミナーの内容を書籍にしたものが本書です。
ですので、内容はかなりしっかりしており(僕が言うのもおかしな話ですが)、また皆んなが疑問に思うであろうポイントもしっかり押さえられています。セミナーを本にしたものですのでかなり読みやすいです。
この二冊で市中と院内の感染症診療の大体のことがカバーできます。かなりのおすすめ本です。
ちなみに、僕は会員でもなんでもありません笑
応用を身につける
『抗菌薬の考え方,使い方』
この本も結構初学者におすすめされていたりしますが、初学者向きではありません。
僕は当初ver.3を買ったのですが、正直に言うとまあ読みにくい、まとまりが悪い本でした。
話言葉で読みやすいといえば読みやすいのですが、抗菌薬の話をしたかと思えば感染症の話をしたり、はたまた論文の話をしたり、と関連してはいるのですが話がちょいちょい逸れるので、読んでいるうちに「この章はなんの話をするための章だっけ?」となってしまうことが多々ありました。
インターネットでおすすめにあげた人は、よくもまあこの本を初学者に勧めたなと(本当に読んだのか?それとも頭いい人は初学でもこれを読みこなせるのか?)。
ver.4になって随分初学者に歩み寄って読みやすくなりましたけど、基本的には基礎ができた人向けです。
(※最近ver.5が発売されましたね。目下、僕の優先順位は別の科目なのでまだ購入してません。購入した後は追記予定です。パッと見た感じはコロナ以外は大きく変わらなそうですけどね。)
話言葉になっているので索引を使って調べたとしても、前後の文脈がわかっていないと把握できないことが多く、索引を使って調べたりするには向きません。辞書的に使う本というより読み物的な本です。
ただ初学者に歩み寄った読み物的な本といえど、一応通読できる分量ではあるものの初学者がいきなりこの量を読むのは気が引けるでしょう。そして内容も臨床したからこそわかる高度な内容が多いです。
僕もこの本(ver.3)を読んだときはまだまだ基礎ができていなかったこともあり、結局頭がまとまらないまま終了しました。
「考え方,使い方」っていう名前にもあるとおり、臨床にでて抗菌薬を使ってきた人が「もっと上手に使いたいな」と感じるようになった時にその良さがわかる本です。初学者は手を出さない方が無難です。
臨床をやると色々と抗菌薬の選択に悩むことが出てくるのですが、その時の引き出しを増やしてくれます。
もう一段抗菌薬を上手く使いたいと思った時に選択肢にあげてみてください。
『レジデントのための感染症診療マニュアル』
名前を知っている人も多いでしょう。そして買っても結局読まない人も多いでしょう笑
日本語版 Mandellと言ったところですか(Mandellの分厚さには全く歯が立ちませんが)。
本屋でサイズを見ればわかりますが、マニュアルと言いながら全く白衣に入りません。
一応名前にマニュアルとありますが、机に置いてどっしりと勉強するための本です。間違いなく基礎ができてからの応用本です。
購入して通読したのですが、やっぱりいい本ですね。出会った症例でその項目を読むたびに色々勉強させられます。
似たような分厚さの『シュロスバーグの臨床感染症学』と比較すると抗菌薬の項目がしっかりと書かれています。が、逆に微生物学の各論はやや弱いですかね。臨床的によく出くわす菌でも載ってないものがちらほらあります。
よく言われるように、この本の初めに書いてある「感染症診療の基本原則」は感染症を学ぶ上での全てと言っても過言ではないです。
感染症内科のない病院で診療していて、感染症を自分でなんとかしないといけない先生にとっては必須に近い本ですかね。
感染症に興味がある人は間違いなく “買い” の一冊です。
ちなみにMandellさんのお値段、約4万円!
た、高けぇ!
ただ、感染症はそこそこ好きになったのと、自分が進む診療科的にかなり重要ですのでそのうちに買おうかと思っています。
ちなみについでに、洋書が問題なく読めるのであれば『COMPREHENSIVE REVIEW OF INFECTIOUS DISEASES』がかなりおすすめです。
感染症学を中心とした、まさにcomprehensive reviewといった内容で、まとめノートみたいな感じです。微生物学・感染症学・抗菌薬のバランスが非常に良いです。
『レジデントのための感染症診療マニュアル』で詳しく突っ込んだ内容をスッキリと頭に入れるのに役立ちますし、お互いの弱点を補完しあっている感じです。
『感染症クリスタルエビデンス』
臨床をやると色々と抗菌薬の選択に悩むことが出てくると言いました。
病院に感染症内科があればコンサルトすれば大丈夫ですが、感染症内科がない病院もまだまだたくさんあるでしょう。
その際は自分でなんとかしなければなりません。
教科書はどうしてもエビデンスとして確立しているものの記載がほとんどですが、臨床ではそこから外れた事象に多く出逢います。
そういった疑問に対して答えてくれるのが本書です。治療に関して悩みそうな問題をある程度網羅してくれています。
例として、個人的に研修で一番印象に残っているIEの症例があるのですが、初回以外の血培をどのタイミングでとればいいのかものすごく悩んだことがありました。
一番できる2年目の先輩に聞くと「毎日とる」と。「いやいや、そんな訳はねぇ。貧血になるわ。」と思っていたのですが、そのことに関してもきちんと書いていました(個人で確認してみてね)。
必須かと言われればイエスとは答えにくいですが、感染症科がない病院で働いている先生は持っていても損はないんじゃないでしょうか。
マニュアル本
マニュアル本に関してはいつか言ったような気がするのですが、目的がはっきりしている本ですので、個人個人で一番気に入った本を選べばそれで大丈夫です。
勉強する本というより「使う・使わない」が圧倒的に大事な本ですので。
『感染症プラチナマニュアル』
岡先生の本ですね。概ね毎年改訂されています。
日本人が書いた日本用のマニュアル本ですので、投与量とかはほとんどそのまま利用できます。
そこまで感染症に関心がない人はこちらでいいんじゃないでしょうか。
マニュアル本ですが、他の科のレジデントマニュアル系と比べると結構詳しく書かれています。参考文献の欄にはびっしりと論文が載せてあり、使い方次第ではこれ一冊でもかなり勉強になります。
サイズが小さいって人用にGrandeっていう拡大版も出版されていますよ。
『感染症診療の手引き』
この記事を最初にupしていた時は前版で流石に内容が古かったため紹介していませんでしたが、その後に改定版が出ましたね。
最近では上記『感染症プラチナマニュアル』がかなりの人気ですが、こちらのマニュアル本もかなりおすすめです。
売りはコンパクトかつ安価かつ見やすさです。これは本屋で実際に見てみるとすぐにわかります。
カラーではないのですが、パッと開いてすぐに目的の項目を探すことができます。マニュアル本なのでこれは結構な利点です。
しかもサイズがコンパクトなので白衣の内ポケットにも余裕で入ります。最近マニュアル本が持ち運べないほど分厚くなる傾向にある中、情報を必要最低限に絞っているためそれが可能になっています。
“マニュアル” 本としてかなりの完成度です。一品ですよ。白衣に忍ばせるなら個人できには断然こっちですね。
『サンフォード感染症治療ガイド』
通称、熱病ですね。感染症内科の先生はこちらを持っていることが多いです。
上記『感染症プラチナマニュアル』と比較すると、よりマニュアル本って感じです。個人的にはこの本で勉強しようって感じにはならないです。マニュアル的に使ってナンボの本だと思います。
アメリカの出版物の翻訳本ですので、薬剤を投与する際は用量に気をつけてください。そのままでは日本で保険適用でなかったりすることがありますので。